自然を漉きこむ 能登仁行和紙


自然のままでいいんや

初代・遠見周作の言葉です。

 

能登仁行和紙はこの姿勢を三代にわたって受け継いできました。

 

一般的な和紙の原料である楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)だけでなく、

身のまわりにある自然のあらゆるものを和紙にするのが能登仁行和紙の特徴です。

 

自然の造形が一番美しく生命力にあふれている。

その美しさを作為なく、そのまま和紙に捉えたい。

 

これが私たちが和紙をつくるときに大切にしている想いです。

 

杉皮紙(すぎかわし)

数ある和紙の中で、能登仁行和紙の代名詞といえるのが「杉皮紙」です。

名前の通り、杉の皮からつくった和紙です。

 

捨て置かれ、踏みつけられた杉皮が 雨に濡れて光る姿が美しかった

 

初代・遠見周作(とおみ しゅうさく)が感じた、何気ない素材の美しさ。

和紙でこの美しさを表現できるのではないかと考え、杉皮紙を作り始めます。

 

粗く太い杉皮の繊維は扱いにくく、完成には試行錯誤が続きました。

杉皮よりもやわらかい能登ヒバの繊維を混ぜるなど工夫を重ねた末、

杉皮紙が出来上がりました。

 

しかし、当初は使い道がなく、全然お金にならなかったと言います。

つくり続けることで稀有な和紙を求める人が増え、少しづつ世に広まっていきました。国内外から注目され、今でも海外から注文が入ることがあります。

 

周作は「あの日の光景と同じくらい美しい和紙はまだつくれていない」と

生涯 杉皮紙と向き合い続けました。

周作が追い求めた美しさはどんなものだったのか。

杉皮紙を作る中でその一端でも見ることができればと思っています。

  

杉皮そのもののたくましく渦巻く繊維をそのまま漉き上げました。

杉皮100%の力強い質感は他と一線を画し、野性的な美しさがあります。

独特の風合い、あたたかく素朴な味わいをもつ杉皮紙は全部で5色展開。

杉皮紙は 平成19年に日本民芸館日本民芸協会賞を受賞しました。

野集紙(やしゅうし)

2代目・遠見 京美(とおみ きょうみ)が創作した「野集紙」も

能登仁行和紙を体現する和紙です。

 

野の草花を摘み集め、そのまま和紙に漉くことからこの名前がつきました。

  

京美は17歳で遠見家に嫁ぎ、義父である周作の紙すきを手伝い始めます。

この野集紙は周作亡き後、京美が大成させた和紙です。

能登仁行和紙をなんとか続けていくんだと

周作を偲び、周作が大切にしてきた精神をもって創りあげました。

 

この地で生まれ育ち、土地や自然のことをよく分かっているからこそ漉ける和紙。

たとえ同じ草花で漉いても京美がつくる野集紙は空気感がまるで違います。

大らかで、愛情深い。だからこそ、いまだに彼女のファンは多いです。

 

自然の中で草花が風にゆれるように

水の流れにまかせて漉く野集紙は自然をそのまま写し取ったような作品です。

 


土入り紙(つちいりし)

現代の生活に和紙を取り入れられるようにと3代目・遠見和之(とおみ かずゆき)がつくりだしたのが「土入り紙」です。

 

土入り紙は壁紙用の和紙としてつくられました。

現代ではあまり見られなくなった土壁の部屋。土壁の質感や空間の雰囲気が好きで、

和紙と共に後世に残していきたいという思いから生まれた和紙です。

 

能登でとれる珪藻土など様々な種類の土を、和紙の原料に混ぜて漉きあげました。

土が入ることで重みが増して道具が傷みやすくなることから、土の配合量と仕上りのバランス調整を繰り返し完成しました。

 

土は採取する場所で成分が異なるので、紙の色は何種類もの自然界の色合いが表現されます。分厚い紙には土の凹凸があらわれ、土壁の表情を出すことができました。

土と紙、二つの素材の良さをあわせ持つ土入り紙は、大地に抱かれるような心地よい空間をつくります。

 

暮らしの中に和紙を

 生活スタイルが変わり、暮らしの中で和紙が登場する機会は少なくなっています。

それでも和紙がもつ素材のあたたかさや、住空間での優れた特性(調湿性、吸音性など)は現代でも必要とされるものです。

 

3代目・和之は、祖父、母から受け継いだ工房をつないでいくため、今の時代に合うインテリアとしての和紙をつくり続けています。

 

「草木染紙」も和之の代表作で、自然素材である藍や、栗の毬(いが)、キハダなどで和紙を染め、深い味わいを出しています。

色を塗り重ねることで無作為にあらわれる模様は和紙であることを忘れるような魅力的な表情です。

タペストリーや壁掛けパネルとして仕立て、若い方や外国の方から人気があります。

 

このほか、植物だけでつくりあげる照明や、アートパネルの創作。既存の和紙でも形・大きさを変えて提案することで今の暮らしに取り入れやすいようにしました。

 

自然素材でできた和紙の壁紙は今後より広めていきたい形です。

ビニールクロスの壁紙では出せない、包まれるような安心感、居心地の良さは和紙壁紙だからこそです。仁行和紙にはいろんな和紙があり、またすべての工程を自分たちで行っているのでどんな希望にも応えることができます。

暮らしの基盤である住空間を、仁行和紙の自然そのものみたいな和紙でくつろぎの部屋にしたいと考えています。

 

独創的な和紙

もともと仁行が和紙の産地だったわけではなく、

周作が戦時中、竹を材料にした紙すきを見たことがきっかけで

1949年頃から和紙づくりを始めました。

 

当初は普通に白い紙を漉き、輪島塗を包む紙として使われていました。

その需要がだんだんと減り、新たな道を模索していた時に杉皮紙が誕生しました

 

周作の自由な発想と、持って生まれた美的感覚によって

独創的な和紙がつぎつぎ創られました。

 

豊穣の土地

独創的な和紙づくりはあふれんばかりの地域の自然に支えられています。

和紙の素材となるものは ほとんどすべてこの地で手に入ります。

 

杉林にかこまれ、草花は季節ごとに顔を出します。

桜、雪割草、キリシマツツジ、あじさい、コスモス、萩、、

厳しい雪の季節が終わると工房のまわりはたくさんの草花が生い茂ります。

20分ほど行けば海もあり、能登の多様な海藻や桜貝をとることができます。

 

かやぶき屋根がのこる、山間の土地。昔話のような世界です。